第5章 IH前
ある朝
練習も終わりいつも通り1番最後に着替えると
最近恒例になりつつある今吉が
入り口で待っていた。
家に来たあの日から
しばらくは目も合わせられない様で
他の人にはわからないように
さやを避けたりしていたのだが
今はもう、開き直ったらしい
今吉と他愛のない会話をしながら
教室に向かっていると
いつもの別れ道にぎゅっと手を握りしめ
立っている女の子がいた。
「く、紅林くんっ!」
「え、俺?どうしたのかな?」
「少しお話しませんかっ」
となりで、にやにやする今吉に見送られ
HRをサボって中庭へとなり、この状況。
顔を真っ赤にした女の子と
気まづい会話をぽつりぽつりとしながら
話を切り出されるのを待っている。
「あの、それで、あのっ…」
「…ゆっくりで、いいよ。」
「っぁ…!…好きです!
私を紅林くんの彼女にしてくださいっ!」
握りしめられた手が震えている。
真剣な気持ちかもしれないが
…申し訳ないことに私は女で。
「…ありがとう。気持ちは凄く伝わったよ。
だが、君は俺を本気で愛する事が出来るのかな?」
「え…?」
「俺は複数人、恋人がいる。
平等に愛し、皆が特別だ。
それでも君は俺の恋人になりたいか?」
「そんな…!」
結局いつもの様に断る事しか出来ず
女の子は泣きながら教室へ戻っていった。
やってしまった…と項垂れるさや
男相手でも純真な気持ちを踏みにじられ
涙ぐむものも多いというのに
女の子相手にあれはなかった。
"1年C組 紅林 生活指導室に来るように"
突然校内放送がかかり、自分の名前が呼び出される。
あれは、監督の声…。
またなんてタイミングだ。
タイミングのいいのか悪いのか…。
さやは苦笑を漏らすと
とりあえず
項垂れている場合ではないので
急ぎ足で生活指導室へ