第11章 過去とプール練
紫原は灰崎の頭を鷲掴みにすると後方へ投げ飛ばす
灰崎は食ってかかろうとしたが
紫原の殺しかねない雰囲気を見て黙って引き下がっていった
「紅ちん?…紅ちん?」
「あ、…あ…む、紫原…」
「そうだよー
もう崎ちんはどっか行っちゃったから大丈夫ー」
「あ…あぁ…私、私…」
安心したようにボロボロと涙が流れてくる
怖かった
灰崎も自分の汚さも
近くにいるはずなのに助けられない状況も
「紅ちん大丈夫だよー」
「っ……!」
「紅ちん聞いてる?こっち見てる?」
「………!」
声も上げず焦点の合わない目で泣くさや
その顔が悲痛で、今にも壊れてしまいそうで
紫原はぎゅっとさやを抱き締めた
「…さやちん
大丈夫、大丈夫だよ」
「…っぁぁ…敦…敦ぃっ…」
紫原に応えるように縋り付くさや
大粒の涙を流し、安堵した
大きな暖かい体がさやを包み
ここにいれば大丈夫
そう思った
*
紫原に連れられて体育館に戻ると
虹村は新しい選手と共に練習に励んでいた
紫原と手を繋ぎ後ろに隠れるようにしながら
泣き腫らした顔のさやに
体育館にいた一同はぎょっとした
「さやっ!?
どうしたんだよお前…」
駆け寄る虹村は状況が読めないようで
とりあえず紫原からさやを取り返そうとするが
さやは紫原から離れなかった
虹村はその様子に驚き、目を疑った
「さや…お前…」
「虹村さんだめー
いまは俺に貸してー?紅ちん壊れそうだから」
「こわれ…?」
「虹村さん私、私…」
******
あれからすぐ虹村とさやは
有耶無耶のままに別れた
紫原の側を離れようとしないさやに
虹村はどうしていいかわからず
1人になれなくなったさやが
次々、青峰達と付き合い始めたのが別れの合図だった
キセキの世代と居る時だけ
さやは元の笑顔を見せるようになり
父親の病気も相まって虹村は
逃げる様にアメリカへ旅立って行った