第11章 過去とプール練
「(アイツ…あんな顔で笑ったか?)」
遅れてやって来た灰崎が
食い入る様にさやを見ていた
全てを支配する笑み
以前見かけた時はそんな風に笑う奴じゃなかった
ただ虹村に引っ付いてうざってぇ顔で
幸せそうに笑っていたのに
「はーいざーきぃ随分遅い登場じゃねぇか」
「げっ…」
虹村に引き摺られながら更衣室へ向かう灰崎は
キセキの世代に囲まれるさやを見て
ペロリと指を舐めた
興味が湧いた
アレは俺のもんだ
*
それから何日かたった
さやは今日も息の詰まる様な朝練を終えて
途中の道で虹村と別れた後
靴箱の上履きに履き替えようと
上履きに手を伸ばした
カサっと手に何かが触れ見てみると
折り畳まれた1枚の紙が雑に上履きの上に乗せられていた
"放課後、一軍体育館裏"
男っぽい字でそれだけ書いてある紙をみた
さやはまたかとため息を吐いた
最近増えている告白イベント
知ってる人から知らない人まで
色々な人に呼び出される事が本当に増えて
その分、虹村のいる体育館に行く時間が減るのが
嫌で嫌でしょうがなかった
とにかく行かない訳にもいないので
練習の前にちょっと顔出せばいいかと思い
授業開始の鐘を聞きながら教科書を開いた
"今日ちょっと遅くなる"
放課後虹村にそれだけ送りさやは体育館裏に向かった
これが間違いだったのかもしれない
いつもなら理由や場所も伝えていくのに
こういう事に慣れてしまったからか
場所が場所だったから
何かあってもいつもの様に虹村が助けてくれると
信じてやまなかったからか
詳しい事も話さず
虹村からの返信も見ずに
さやは一軍体育館裏に着いてしまった
"おー。わかった。
今日俺、昇格試験で二軍体育館だから
終わったら来いよ"
「まったく…めんどくさいわね」
さやが男の影を確認し心底嫌そうにそう呟くと
体育館の影に隠れていたその男は
さやの声が聞こえたのか、ゆっくり近づいてきた