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リンゴ

第9章 日向順平







「順平さん、まだだめです」


「なっ…なんで」


「もっと私を知ってください
そして、私を順平さんにハマらせて…」



耳元で囁くように言うさや


蕩けるような甘い声

頭にガンガン響くその声に


魅了されながらも



(……上等だ。
やってやるよ。お前を俺に惚れさせてやる)



日向はそう心に決め、にやりと笑った。





******





さやは日向と駅で別れ
笠松の家に向かっていた

行き先があるなら送っていくとは言われたものの


流石に笠松と日向を鉢合わせる様な
無神経さはもっていない


丁重にお断りして
暗い夜道をぽつり歩いていた


住宅街に入り点々としか、明かりが見えなくなってきた



もうすぐ着くはずだが
生憎どの家かわからないさやは携帯を開いた



"こんばんは
笠松さんどの家ですか?"



LINEでそう送信すると
すぐさま既読がつき、目の前の2軒先のドアがバッと開く


慌てた様子の笠松が飛び出し

暗闇の中佇んでいるさやに気付くと
凄い勢いで駆け寄ってきた



「バッカ!
お前1人で来るなんて何考えてんだ!シバくぞ!」


「こんばんは笠松さん
私に慣れてくれたみたいで嬉しいです」


「そうじゃねぇだろーが…
駅ついたなら言えよ迎えに行くから!」



怒り心頭の笠松に
にこりと笑って言うさや


笠松はブツブツと文句を言いながらも

はあとため息を吐いた



(そりゃあんな事すりゃあ
喋るくらいは平気にもなるわ!)



と 心の中でツッコミを入れる



「とりあえず上がれ
今日は誰もいねぇから気にすんなよ」


「そうなんですか?よかった。

お泊まりしたくて色々持ってきたんです」



家の方に向かう笠松の後を追いながら
ポーカーフェイスでそう言うさや

笠松はビクッと体を跳ねさせながら
さやを振り向いた



「え?は?と、泊まり?」


「だめですか?」



ん? と首を傾げながらそう言うさやに言葉が詰まる


ダメだって事は無い
今日は家族は誰もいない訳だし

も、もしかしたらそんな事になるかも

とは思っていた







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