第9章 日向順平
「順平さん、まだだめです」
「なっ…なんで」
「もっと私を知ってください
そして、私を順平さんにハマらせて…」
耳元で囁くように言うさや
蕩けるような甘い声
頭にガンガン響くその声に
魅了されながらも
(……上等だ。
やってやるよ。お前を俺に惚れさせてやる)
日向はそう心に決め、にやりと笑った。
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さやは日向と駅で別れ
笠松の家に向かっていた
行き先があるなら送っていくとは言われたものの
流石に笠松と日向を鉢合わせる様な
無神経さはもっていない
丁重にお断りして
暗い夜道をぽつり歩いていた
住宅街に入り点々としか、明かりが見えなくなってきた
もうすぐ着くはずだが
生憎どの家かわからないさやは携帯を開いた
"こんばんは
笠松さんどの家ですか?"
LINEでそう送信すると
すぐさま既読がつき、目の前の2軒先のドアがバッと開く
慌てた様子の笠松が飛び出し
暗闇の中佇んでいるさやに気付くと
凄い勢いで駆け寄ってきた
「バッカ!
お前1人で来るなんて何考えてんだ!シバくぞ!」
「こんばんは笠松さん
私に慣れてくれたみたいで嬉しいです」
「そうじゃねぇだろーが…
駅ついたなら言えよ迎えに行くから!」
怒り心頭の笠松に
にこりと笑って言うさや
笠松はブツブツと文句を言いながらも
はあとため息を吐いた
(そりゃあんな事すりゃあ
喋るくらいは平気にもなるわ!)
と 心の中でツッコミを入れる
「とりあえず上がれ
今日は誰もいねぇから気にすんなよ」
「そうなんですか?よかった。
お泊まりしたくて色々持ってきたんです」
家の方に向かう笠松の後を追いながら
ポーカーフェイスでそう言うさや
笠松はビクッと体を跳ねさせながら
さやを振り向いた
「え?は?と、泊まり?」
「だめですか?」
ん? と首を傾げながらそう言うさやに言葉が詰まる
ダメだって事は無い
今日は家族は誰もいない訳だし
も、もしかしたらそんな事になるかも
とは思っていた