第2章 身代わり
急いで着替えを済ませ、スタジオに戻る道中。
ふいにスマホが鳴り、衣装の隠しポケットから取り出した。
「メール? 相手は誰………、」
なかばで途切れる言葉。その差出人は。
「密花………? 一体どうして………、」
呆然と呟く声。
気づくと、駆け出していた。
『姉さん、ごめんなさい。密花の我儘を許してください。
私が七神密花として築いてきたものを、ぜんぶあげるから。
だから、私が帰るまで、そのまま私の身代わりをして欲しいの。
いつかきっと戻るから。心から大好きだよ、姉さん』
心臓が不穏に脈打って、けれど脚を止めるすべはなくて。
(どうして、密花………!!)
答えのない問いが、胸のなかでさざめいた。
息が切れても、脚がもつれて転びそうになっても。
走って、走って、また走って………。
(あの子がこんな風に消えるなんて………!)
怒りとも戸惑いともつかない感情が、染みのように広がった。
すれ違いざまにスタッフやほかの芸能人から向けられる声も
傍観者のような視線も、すべてを無として。