第5章 相反感情
「ん・・・・・朝、か………。」
部屋に差し込む光を感じ、ハクは瞼をひらいた。
起き上がると、ジーパンだけを履いたむき出しの身にシャツを羽織る。
釦を留めながら、窓辺に近づくと。
「キラと………律花? なぜあの二人が………、」
瞳をこらすと、彼女の眦に光るものを見止めた。
キラはそんな彼女を抱きしめ、柔く背をさすっている。
「律花………、」
思考の奥に、かつて見た光景が唐突に蘇ってくる。
あの忌まわしい場所に放り込まれ、物として扱われる毎日。
ひとり裏庭に踞っていた彼に
彼女は花冠をのせて微笑いかけた。見たこともない顔で。
何故いまこんなことを思い出すのか。なんでこんなに―――。
あの時は違ったのに。
彼女の優しさに、痛みを慮る強さに、誇らしくさえ感じたのに。
今は―――。
アノトキノショウネンガ、ジブンダッタライイトオモッテル。
「っ………。」
首を振って、率直すぎる心を押し込めた。
「俺以外の誰かと結ばれることがあいつの幸せなんだ。
そう思ってきた筈だろう?」
みずからに説き伏せる。
はじめからわかっていたことだ。
あの頃も、そして今も、彼女の目には彼しか映っていなかったではないか。
そして本当に彼女が彼を選んだとしても
彼女の幸せのために身を引くと誓ったではないか。それなのに。
………それなのに、軋む音は激しさを増すばかりだった。
そしてその音は、必死に殺してきた本当の願いを
ふたたび胸に息づかせたのだった。