第2章 身代わり
忙しなく靴の音を響かせ、階段を下りようとしたその時。
『誰か』に、腕を引っぱられ………。
口元にあてがわれた布は
息を吸ったらきついアルコール消毒液のような匂いがした。
(これ、は………。)
麻酔薬………。
子供の頃、好奇心旺盛だった自分は
女医の祖母に一度だけ嗅がせてもらったことがある。
もっとも、この匂いより遥かに薄められたものだったが………。
だんだんと身体から力が抜け落ち、瞼が下がっていく。
律花、………律花!
その声が誰のものなのかも理解らないまま。
意識を霧に沈めた。