第2章 身代わり
「カット! OK!」
声がかかり、律花はほっと息をついた。
「お疲れ、密花!」
「ありがとう、ルビー」
ぱちん、と手と手を打ち鳴らして、微笑い合った。
(あれ………?)
どこからか視線を感じて、きょろきょろと瞳を巡らせた。
とらえたのは、チョコレートブラウンの髪をした幼なじみ。
「ハク………?」
知らず名前を呼ぶ。
刹那、彼と視線が絡むと。
風に包まれ、消えていった。
「密花………?」
温かな手の感触に、初めて現実世界へと帰ってくる。
「ぁ………ううん」
微笑って見せると、ルビーはほっとしたように目元をゆるめた。
集中しなきゃ、私が身代わりだってばれないように―――。
きゅ、と胸元を握りしめた。
(きっと大丈夫よ。
私達のことをよく知ってるのは、私達だけなんだから)
次の撮影の準備をするスタッフ達を見つめながら、思考に載せる。
「密花、次の撮影がはじまってしまう。
はやく着替えてきて」
ケイトが背を押しやる。
「わかってるよ。いま行くから、」
ふわりと栗色をゆらし、楽屋へと消えていく。
棘のある笑みを浮かべていたその女に、気づかないままに………。