第2章 身代わり
「よく似合ってるよ、密花!」
物思いに沈んでいた思考が一瞬にして冴えわたる。
鏡のなかでは、髪を編み込みCMの衣装を纏った自分が見返していた。
純黒を基調とし、胸元で紅薔薇がそっと咲いているのが
大人びた印象を与えるそのドレス。
スカート部分は人魚の尾ひれのように
膝あたりまで身体の線にぴたりと沿い、女性らしい線の細さを強調していた。
ふくらはぎから足首にかけてはふわりと広がり
蝶の羽のごとくひらひらと舞う。
「ありがとう。行ってくるね」
密花ならどう答えるかと載せかけるが、すぐに思考から消し去った。
(私は、私の知ってるあの子を演じるだけ)
明るく社交的で、だけれど泣き虫で寂しがり屋。
それが、自分の知る妹だから。
(あなたの本心は、今はまだわからないけど。
きっと見つけるから)
そう信じて、つま先を目指す。
………それが甘い考えだと知らずに。