第1章 鈍感監視者さんと狛枝くん【狛枝凪斗】
「いえ、いいんでちゅ…。本意じゃなかったとしても、狛枝くんを傷つけてしまった事実は変わらないでちゅから……」
「ウ、ウサミちゃん……」
哀愁漂うウサミちゃんに何と声をかけていいか分からず口ごもっていると、突然ウサミちゃんが勢いよく顔を上げた。その顔はショックを隠しきれていない、酷い顔だった。
「でも、まさか1日も経たない内に生徒から失望されるなんて、あちし教師失格でちゅ〜……!」
「あっ!ウサミちゃん……!」
最後まで言い終わらない内にウサミちゃんは狛枝くんの肩から飛び降り、「うわーん!」と泣き声を上げながら去って行ってしまった。その行動はとても速く、引き止める間もなかった。
「あはっ、ウサミ行っちゃったね」
「…………」
それは主に貴方が原因な様な気がするけど、口に出して言うのは何だか怖くて出来なかった。
……ウサミちゃんが去ってしまい本当なら追いかけたいけど、狛枝くんをひとりここに置いていくのも出来なくて、どうしようと考える。
何かいい案はないだろうか、と考えていると、こちらに向き直った狛枝くんが笑顔で口を開いた。
「さて、ウサミからの許可も下りた事だし、ボク達もそろそろ行こうか」
「え……あの言葉から、どう考えたらそう導き出せるのですか!?」
「さんは鈍感さんだから気が付かなかっただけだよ」
「そ、そうだったのですか?……い、いえ!いくら私が鈍感な方でも、さっきの言葉がそうじゃないのは分かります……!」
「………あはっ、バレちゃったね」
「や、やっぱり……!」
何だろうか。嘘でも、狛枝くんはまるで本当の事ように言うから騙されそうだ。でも、今回は騙されずに済んでよかった。……少し危なかったけど。