第4章 気付いたからには【狛枝凪斗】
「ふわああ……。おはよう、狛枝」
既に決まり文句と化している朝の挨拶に欠伸をしながら応えると、狛枝は胡散臭い笑顔から一転、誰から見ても分かるほどに表情を不満げに歪ませた。
「さん、もう少し驚いてもいいとボクは思うんだけどなぁ」
「何言ってんの。もう何回目かも分からないほど隣にいるのに、今更驚くも何もないでしょ」
狛枝の意見をすっぱり一刀両断すれば、今度はぷくぅと頬を膨らませてぶうぶう文句を垂れてきた。……この短時間で、よくそんなにコロコロ表情を変えられるものだ。
呆れながらも文句を無視してベッドから降り、顔を洗う為に洗面台に向かう。すると、どうやらついて来ているようで、足音と未だに言っている文句が後ろから聞こえてくる。でも私は、それも無視して顔を洗い始めた。
私は特別察しがいい訳ではないけれど、天然でも鈍感でもないと思っている。だから、狛枝から好かれている事はすぐに分かった。
まだ直接言葉にして言われた事はないけれど、彼の様子や行動を見れば一目瞭然だ。その証拠に、今日だって隣にいたのだから。……好きでもない女のベッドの中に入る男は、流石にいない…よね?私だったら絶対にしない。
それに、自分としてはコテージのドアや窓の鍵は閉めているつもりなんだけど、一体どうやって侵入しているのやら。聞きたいけど、真実を知るのも怖いと思っている私がいる。だから、今のところ聞けずじまいだ。
そんな事を思いながら顔を洗い終わり、昨日のうちに用意していたタオルで拭こうと手を伸ばすけど、目当ての物がないのか、ふわふわとした感触が伝わってこない。
あれ?おかしいな……と思いながら手探りしていると、狛枝から「はい、これだよね」と言われながら手を掴まれ、ふわふわとしたものを握らされた。……この感触、まさしくタオル。
「ありがとう、狛枝」
タオルを取ってくれた狛枝にお礼を言い顔を拭けば、彼から「どういたしまして」という言葉が返ってくる。それ自体は不思議ではないんだけど、その声が妙に嬉しそうに弾んでいたのが気にかかり思わず顔を上げると––––