第1章 鈍感監視者さんと狛枝くん【狛枝凪斗】
「………え」
聞き間違えじゃなければ、今狛枝くんは私に「おでかけしてくれますか?」と言った?
混乱する私をよそに、狛枝くんの肩に乗ったままだったウサミちゃんが「よく言えまちたね〜!」と褒めていたので、どうやら聞き間違えではないらしい。……という事は、おでかけに誘われたのか。今は生徒である狛枝くんから、ウサミちゃんと同じく教師役を担っている私に。
……………
「えええええっ!?」
「「!?」」
驚きすぎて、思わず大きな声を出してしまった。そしたら狛枝くんとウサミちゃん、両方からギョッとされてしまったけどそれどころではない。
確かにこのチケットは誰にでも使えるけど、まさか私に渡してくる人がいるとは思わなかった。しかもよりによって狛枝くんから。……いや、嫌という訳では決してないけど、自分とおでかけしたところでこの修学旅行の要である『希望のカケラ』は集まらない。それでは駄目なのだ。
「……って、ボクみたいなゴミ虫に誘われても、さんは嬉しくないよね……」
悶々と考えていると、不意に狛枝くんが自嘲気味に笑いながらそう言って、おでかけチケットをロングコートのポケットの中に仕舞おうとする。その手を私は慌てて掴んで引き止めた。
「い、いえ…!嫌でもなければ、嬉しくない訳でもありません!むしろとても嬉しいです!」
そう、それは紛れもない事実だ。だからそんな風に笑ったり、自分を卑下するような事は言わないで欲しい。
ギュッと掴んでいた手を握り締めながら言うと、狛枝くんは何故か頰を赤らめながらも小さく頷いてくれた。それに胸を撫で下ろし手を離すと、すかさず今度は狛枝くんから手を掴まれた。そしてそっとおでかけチケットを握らされる。
その一連の動作に驚き顔を上げると、にっこり顔の狛枝くんがこちらを見つめていた。
「という事は、さんはボクとおでかけしてくれるんだね!……嬉しいなぁ。今ならどんな不運が来たところでへっちゃらだよ!」
「こ、狛枝くん……」