第3章 恋のキューピッドはノート様!?【狛枝凪斗】
確信めいたその質問に、心臓を直接強く握られたような感覚に陥る。……図星だったからだ。
そう、私はもしを妄想してしまったのだ。このノートで自分の好きな人……狛枝くんとキスするところを。おまじないや占いの類いを信じない方だと言っておきながら。
(……やっぱり、軽蔑されたよね……)
まだ書いていないとはいえ、努力もしないで相手の気持ちを無視するような事を考えていたのだ。軽蔑されない方がおかしい。
(嫌だ…。軽蔑されたくない……!)
そう頭では分かっているけど、やっぱり本心では軽蔑されたくないと叫んでいる。でも、私の表情を見て察してしまったのだろう。狛枝くんが顔を曇らせ––––
「––––えっ」
「……そっか。でも、このノートを使うのはオススメしないかな。心が失われるって書いてあるし。まあ嘘かもしれないけど、本当だったら大変だからね」
最初は私の願望が見せているのかと思ったけど違う。
狛枝くんの表情が嫌悪感丸出しに歪められる事なく、代わりに悲しげに瞳を揺らし無理に笑った。
「……さんなら大丈夫。こんなノートを使わなくても、きっと上手くいくよ」
「っ……」
(……どうして、そんな風に笑うの……?)
私に頭を拭いてもらえて幸運だと言ってくれた時といい、今のその表情といい、もしかして……私は期待してもいいのだろうか。勘違いじゃなくていいのだろうか。
「それじゃあ、そろそろボクはお暇するね」と言いながらノートを床に置き立ち上がる狛枝くん。でも私は、踵を返してドアへと向かう際に翻ったロングコートの裾をそっと掴み、小さく引っ張る事で引き止めた。そうしたら、こっちを振り向いてはもらえなかったけど、止まってくれた。
「……どうしたの?さん」
「ま、待って……」
「……キミは、ボクを引き止めるのが好きだね」
「ご、ごめんね……」
「謝らなくていいよ。……嫌だと思った事は一度もないから」
「っ……」