第3章 恋のキューピッドはノート様!?【狛枝凪斗】
そう思ったけど口にする余裕が今はなく、狛枝くんがちゃんと離れたのを確認してから身体を起こしKISSノートを持って彼から距離を取る。
……狛枝くんから離れたにも関わらず、未だに心臓は激しく動いていて、全力疾走した訳ではないのに息が乱れる。今の私は耳まで真っ赤に染まっている事だろう。熟れたりんごみたいに。
「はい、離れたよ。……見せてくれるよね?」
そんな私に対して、狛枝くんは悪びれた様子を見せず手を差し出してくる。ノートを渡せ、という事だろう。それに何とも言えない気持ちが湧いたけど、約束は約束だ。
不本意ながらもその場から動かず腕を伸ばして渡すと、狛枝くんは苦笑しながら「ありがとう」と言って受け取る。そして、早速ノートの表紙を見た彼の目が丸くなった。……それはそうだろう。
「KISS……?」
「…………」
説明を求めるように狛枝くんの視線がこちらに向いたけど、説明する気力がない。だから顔を横に背けると、私からは聞けないと判断したらしく、ページを捲る音が聞こえてきた。
(ああ……)
表紙の裏には、KISSノートの説明が書かれている。きっと……いや間違いなく狛枝くんも目にする事だろう。
(さようなら、私の人徳……)
…………
…………
「……?」
良し悪しにしろ、何かしらの反応はあるだろう。
そう思っていたけど、未だに狛枝くんから声が発せられない。それを不思議に思い顔を正面に戻すと
「!?」
彼が無表情で食い入るようにノートの説明欄を見ていた。初めて見るその表情に、驚きと共に何だか恐怖も感じ何も言えずにいる私に、狛枝くんはノートから視線を逸らさずに言った。
「……もしかして、さんって好きな人いる?」
「えっ!?」
予想外の質問に動揺して、思わず大きな声を出してしまった。これじゃあ答えてないけど、肯定しているようなものだ。
そう感じたのは狛枝くんもだったらしく、ピクリと肩を揺らしてから視線をノートから私に移す。その瞳は、無表情ながらも揺れているように見えた。
「それってやっぱり、ここにいる人の中の誰か……?」
「え、えっと……」
「……そうなんだね。……じゃあ、このノートを見て、その人とキスしたいなって思った?」
「っ……」