第3章 恋のキューピッドはノート様!?【狛枝凪斗】
「あっ、あ〜狛枝くんが気にする程の物じゃないよ!」
あんなのを狛枝くんに見られたら何て思われるか。もしはしたない女なんて思われてしまったら、この先生きていける気がしない。
そんな思いから慌てて両手を上下に振りながら言えば、狛枝くんは目をパチクリした後、それはもう楽しそうににっこりと笑った。……嫌な予感しかしない。
「そんな風に言われると、逆に気になるのが人間の性だよね」
「うえっ!?」
「確かテーブルの上に……」
「だ、駄目ー!!」
やっぱり!と思いながら、狛枝くんに見られないようにテーブルに置いてあったKISSノートの上に慌てて上半身を使って覆い被さる。今絶対に大変な格好をしているだろうけど、背に腹は変えられない。
「ほ、本当に大した物じゃないから!」
「……へえ、じゃあ何でそんなに慌ててるのかな?」
「え……」
見られたくないその一心でテーブルにしがみついていると、不意に目の前に影が差し、狛枝くんの声が近くで聞こえてきた。それを不思議に思い顔を上げると
「こ、狛枝くん……!?」
視界いっぱいに狛枝くんの顔が映った。……どうやら、私の上に覆い被さっているらしい。その事実に、鳴りを潜めていた心臓がまた暴れ出すのが分かった。
「なっ、なん、なんで……!」
至近距離で見つめ合うのに耐え切れず、顔を元に戻し吃りながらも何とか疑問を口にする。狛枝くんの行動の意味が分からなかった。
すると、耳元でクスリと小さく笑う気配がした。それが直に伝わり、思わず息が詰まる。
「なんでって、さんが隠している物が気になるからだよ」
「か、隠してなんか……!」
「本当に?」
「ひゃっ!?」
狛枝くんの、独特な低い掠れ声で囁かれ、自分の意思とは関係なく変な声が口から出た。……恥ずかしすぎて、穴があったら入りたい。
「……可愛い」
「んっ…もう、やめ……!」
「やめて欲しかったら、キミが隠している物、見せて?」
「〜〜〜〜っ、分かった!分かったから離れて!!」
苦渋の決断だったけど、この状況から抜け出されるのならと見せる意思を半ば叫ぶように伝えると、狛枝くんが私の上から離れるのが分かった。その際、少し名残惜しそうだったのは気のせいだろうか。