第3章 恋のキューピッドはノート様!?【狛枝凪斗】
「どうしたの?さん。……あっ!そういえばコテージを汚したままだったね!待ってて、すぐ掃除するから!」
「あ、大丈夫だよ!自分で掃除するから!」
「でも……」
「そ、そんな事より、やっぱり拭くよ!」
「え……」
どうしようと悩んだけど、その悩みも先程の狛枝くんの表情を見て吹き飛んだ。
(あんな顔をさせたかった訳じゃない)
「ほ、本当にいいの……?」
「うん」
「無理してない……?」
「うん、してないよ」
しきりに確認してくる狛枝くんに笑顔で頷き返していくと、おずおすといった様子でタオルを渡してきた。
「えっと、お願いします」
「ふふっ、何で敬語なの?」
「ご、ごめん……!」
「別に怒ってないよ。……はい、それじゃあ座って」
「う、うん」
タオルを受け取り、先程と同じ所に座るよう促せば、またおずおすといった様子で座る狛枝くん。その様子が何ともおかしく、小さく笑いながらも彼の頭を拭いていく。今度は先程よりも丁寧に。
(それにしても……)
絶対挙動不審になると思ったけど、そんな事はなかった。むしろその逆で、とても心が凪いでいる。心臓の音も、もう忙しくない。
(さっきの狛枝くんが、普段より幼く見えたからかな)
こんな事言ったら流石の狛枝くんも怒りそうだ、と思いながら拭いていく私は気付かなかった。
タオルの下で頰を赤く染め上げ、嬉しそうに笑っている狛枝くんに。
頭を拭いている内に、どうやら服やズボンはこの南国の暑さで乾いたようで、そのまま狛枝くんと一緒にコテージを掃除した。最初は断ったけど、「拭いてくれたお礼……というか、そもそも汚したのはボクだしね」と言った彼に根負けして。
そして掃除が終わり、狛枝くんはこれからどうするんだろう、と思った時、彼が思い出したように口を開いた。
「そういえば、結局さんは何で正座してたの?」
「え?」
「正座しながら何か見てたよね?……あれ?違った?」
「…………あっ!?」
何の事だろう?と思ったけど、思い出した。
狛枝くんが来るまで、ウサウサヤシーンで当たった"KISSノート"を見ていた事を。