第3章 恋のキューピッドはノート様!?【狛枝凪斗】
「だから、ごめんね……」
「っ、それは違うよ!」
「!?」
罪悪感から力なく謝ると、それを吹き飛ばすような力強さで否定してきた狛枝くんが勢いよく顔を上げた。その際驚いて手元からタオルが落ちてしまったけど、私は拾えずにいた。……何故なら、否定された時と同様の力強い、真っ直ぐな視線に目が釘付けになったからだ。
「さんは何も悪くないよ。こんなのいつもの事だし、いつもの不運だから」
「だ、だけど……」
「……でも、やっぱりボクはツイてるなぁ」
「え……?」
プールに落ちてずぶ濡れになったのに、どこがツイてるのだろうか。
狛枝くんの突拍子もない発言を不思議に思い聞こうとした時、不意に彼の瞳が柔らかく細まりふにゃりと笑った。
「だって、そんな不運を吹き飛ばすくらい、キミに濡れた頭を拭いてもらえてるという幸運が起きたからね」
「っ…………」
…………
…………
「へあっ!?」
狛枝くんの見た事のない表情に息が止まり、優しく言われた言葉をあまり理解出来ないまま惚けていたのにどれくらいの時間が経っただろうか。
正確な時間は分からないけど、彼の言葉を理解し、なおかつ先程までしていた行動を自覚した瞬間、私の口から意味の持たない変な奇声が零れ落ちていた。
(わ、私は一体何をしてるんだ〜……!)
狛枝くんが風邪を引かないように、それだけを思いながら彼の頭を拭いていたけど、今冷静になれば正気の自分では考えられないほどの大胆な行動を取っていた。
途端にバクバクとうるさく鳴り出す心臓の音。それに加えて、自分の身体がこの南国の暑さに負けないくらいの熱を帯びていくのが分かる。
(う〜!静まれ、私の心臓の音〜!)
いっそ痛いくらいに早鐘を打つ心臓が、狛枝くんに聞こえてしまうのではないかと心配になる。だから、出来るだけ冷静になろうと小さく深呼吸するけど、先程の狛枝くんの言葉が尾を引いていて敢えなく失敗してしまった。
(さっきの、どういう意味なんだろう……!?)
言葉通りに受け取るなら、私に頭を拭いてもらえてう、嬉しい……みたいな感じに聞こえるけど、実際はどうなのだろうか。
……聞いてみたい気もする。でも、もし間違っていたら、私は自意識過剰の勘違い女になってしまう。狛枝くんに、そんな風に思われたくはない。
