第2章 希望を前に幸運はわらう【狛枝凪斗】
「どうやら、今回は私の勝ちみたいだね」
「…………」
「……?」
勝利を宣言されたにも関わらず、狛枝くんから何の返事も聞こえてこない。それを不思議に思い、先程と同じ言葉を口にしたけど結果は同じ。そのせいで焦燥感に駆られる。
(ど、どうして…何も言ってくれないの……?)
もしかして、声が出せない程悔しがっているのだろうか。それなら納得だけど、実際のところは分からない。
「……本当?」
「え?」
だから今度は狛枝くんの名前を呼ぼうとしたら、前からポツリと疑問が呟かれた。でも何の事を聞かれているのかよく分からず聞き返すと、「さっきのキミの言葉だよ」とまた同じトーンで呟かれる。
……さっきの言葉という事は、私の夢の話か。それなら本当なので素直に「うん」と答えると、少しの間の後"それ"は起こった。
「……っ!?」
突然、何の前触れもなく、何かが首元に触れる感触が伝わってきた。最初は虫かと思って身構えたけど違う。……この感触は手–––指だ。もしかして、狛枝くんの指だろうか。
(どうしてそんなところを……ま、まさか!)
私の首を絞めようとしているのではないだろうか。狛枝くんにとって、私は邪魔な存在だから。
「っ……」
その考えにたどり着いた瞬間一気に血の気が引き、急いで離れようと掴んでいた手を離すけど、すかさず手を掴まれグッと強く引き寄せられてしまった。そしてまた、首元に指が触れられる。
(嫌だ嫌だ!死にたくない死にたくない!)
心の中では死にたくないと叫べるのに、死への恐怖で喉がカラカラに乾いてしまったせいか、声に出してみんなに助けを乞う事が出来ない。身体だって先程まで動けていたのに、今ではただただ恐怖で震えるだけだ。
(助けて…輝々っ……!)
……………
(……あ、あれ……?)
お、おかしい。
いつまで経っても、一向に首を絞められる感触が伝わってこない。ただ撫でるように首元を触られる。
そのせいで今まで感じたことのない、ゾクゾクとした感覚が背筋に駆け巡った。
(な、なに……?)
よく分からない感覚に戸惑っている間にも、狛枝くんの指が首元から首筋、顎の下、顎……とゆっくり上がっていき、その指が唇で止まる。そして、まるで何かを確かめるように何度か優しく押された後、スルリと輪郭をなぞられた。
