第2章 希望を前に幸運はわらう【狛枝凪斗】
「ありがとう、さん。……楽しみにしてるね」
「っ……」
……この数日で色々な狛枝くんの笑顔を見てきたけど、今回のは今までの笑顔と違ってとても眩しく映り、ドキリと胸が大きく高鳴るのが分かった。そのせいで胸がいっぱいになり、何か言わなくてはと思ってても結局言えず、私に出来る事といったら慌てて腕を振り払い駆け足でその場を去る事だけだった。
その後、旧館から出て罪悪感が押し寄せてきたのは言うまでもない。
「……「楽しみにしてるね」って、ボクは偉そうに何を言ってるんだろうね。あんなの、さんが気を遣ってくれたただの社交辞令なのに」
「遅くなってしまった……!」
ロケットパンチマーケットから持ってきた苺やその他諸々が入ったビニール袋を片手に、私は旧館への道のりを駆け足で進む。
あの後狛枝くんに対して罪悪感に苛まれたり、苺だけでなく他のももしかしたら足りないかもしれない、と色々とマーケットで吟味していたらすっかり遅くなってしまった。
(距離が短いのがせめてもの救いだよ……!)
マーケットと旧館のあるホテルが隣同士で本当によかったと心からそう思う。これでもし遠かったらと思うと悲惨でしかない。
誰かは分からないけど、こういう風に設計してくれた人に感謝しながらも全力疾走すれば、あっという間に旧館にたどり着いた。とはいえ全力疾走したせいで、やっぱり息が苦しい。
「はあ、はあ………ふぅ」
旧館の扉の前で胸に手を当て、息を整えてから扉をそっと開けて中を伺う。……どうやら、玄関には狛枝くんはいないようだ。その事実にホッと胸を撫で下ろし、素早く中に入った。
……あの時、せっかく狛枝くんが「楽しみにしてるね」と言ってくれたのに、自分の都合のせいで微妙な別れ方をしてしまった。だから、ちゃんと会ってきちんと謝った方がいいと頭では分かっているけど、彼に会うのは何だか気まずくて出来ない。