第2章 希望を前に幸運はわらう【狛枝凪斗】
「輝々、ありがとう!」
突然のお礼に驚いたのか、輝々は何事かと目を丸くしていたけど、お礼の意味に気付いたみたいでにっこりと笑った。
「どういたしまして……と言いたいところだけど、お礼はもっと別な」
「それじゃあ行ってくるね!」
「ンフフ、流石幼馴染み。ぼくのあしらい方を熟知しているね!」
「お褒めに預かり光栄でーす!」
輝々のいつもの変態発言をスルーして厨房を出る。ドアを閉める際に見えた輝々の顔はとても穏やかな表情をしていて、私は自然と頰がゆるくなるのが分かった。
(よかった…。輝々、少しは元気になってくれたみたいで)
希望を前に幸運はわらう
『私立 希望ヶ峰学園』。
様々な分野に秀でた才能を持つ少年少女達を迎え入れ、更なる高みへ導いていく事を旨とし、その学園を卒業した者は人生において成功したも同然と言われている。
語彙力もなくなる、そんな凄いとしか言いようのない学園から、輝々ならまだしもまさかの私にまでスカウトが来たのだ。輝々は超高校級の料理人、そして私は超高校級のパティシエとして。
ただの趣味で色々なお菓子を作っていただけに過ぎないのに、と最初は思ったけど、輝々の説得や自分の作ったお菓子で色んな人を笑顔にしたい、という思いから私は学園の入学を決めた。
そんな経緯で希望ヶ峰学園の門を潜ったのも束の間、いきなり視界がぐにゃりと歪み、気付いたら隣にいた輝々がいなくなり代わりに目の前に扉が現れた。
よく分からない現象。混乱してもおかしくない状況なのに、何故か私は落ち着いていて、ただ目の前の扉を開けて中に入らなくちゃ、という使命感にも似た感情を抱いていた。
そんな感情に疑問を持つ事なく素直に開けると、中は教室でそこには複数人の女の子と男の子がいた。その中に輝々の姿もあり、その普段と変わらない姿を目にした途端、私はそこでやっと感じ始めた混乱と安堵感がどっと押し寄せてきて、他の人達には目もくれず一目散に輝々に駆け寄り、その可愛らしいボディに抱きついたのだ。
……今思えば随分と大胆な行動をしたな、と恥ずかしくなる。