第2章 真夏の邂逅
プールサイド備え付きの机にカクテルを置いてから、は水面に浮輪を浮かべる。去説とプールに入ろうかとするも、軽快に泳ぎ回る彼の起こす波で、浮輪が揺れて上手く乗れずに、は水中へと真っ逆さまに落ちてしまった。やれやれと水面から顔を出して、のそのそと浮輪を引き寄せてから、もう一度浮輪に乗ろうとするが、濡れた体が浮輪から滑ってずり落ちてしまう。
一部始終を信じられないと云った顔で見ていた彼は吹き出して、笑いながら手を出した。
「吃驚する程、鈍臭ェな」
初対面の人らしからぬ罵られ方をしている気はするが、身に覚えがある以上、ありがたく其の手を取る。正直、一度落ちてしまうと、その後も中々上手く乗れないのが、浮輪である。しかし、如何乗るのか考える間も無く、身体が水からふわりと浮き上がった。
喉の奥から、悲鳴のような声が漏れる。味わった事のない浮遊感に、内臓を空中に置いてきた侭、身体だけが浮輪に嵌ったような感覚を味わった。此れで良いかと尋ねられた気がするが、目の前が白黒して、頷くので精一杯だ。
彼は鼻で笑って、また、泳ぎ始める。在れだけ筋肉質な身体が、沈まないのが不思議で仕方ない。押し出された波で揺れて、流されるだけのとは、大違いな楽しみ方だ。
「泳がねェのか?」
一連の流れを見た後に持ちかける質問ではない。馬鹿にしてるのかとも思いながらそっぽを向いて、は生真面目に返事した。
「泳げません」
そうかと返事するや否や、彼はの浮輪を沈めた。自重に従って、浮輪の穴からズボッと音が出そうな落ち方をして、が沈む。
彼は然も面白そうに笑いながら、を引っ張り上げた。ずぶ濡れになって顔に張り付く髪を掻き分けながら抗議しようとするも、掴まれた腕の痛みに、は声を上げた。の腕を見た彼は、眉間に皺を寄せる。
「酷ェ日焼けだな」
炎天下で海に浮いていた所為だなと、尤もなご意見を頂くが、其れなら此方にも思う所があった。
「浜に怖い人たちがいて、通れませんでした」
自由に行き来できるのなら、とて、もう少しばかりは休み休み浮いていたはずだ。遠くで浮いているだけなら害はないと思っていたのが、間違いだった。