第5章 ゆるふわ
「中也くん、入るよ」
突然、中也の自室を訪ねてきたは、2回ノックしてから扉を開ける。ソファで寛いでいた中也が驚いて、跳ねるように立ち上がった。
「あぁごめんね、座って呉れて構わないよ。怪我をしたって聞いて、お見舞いにきただけだから」
紅葉に怒られたと、音が出そうな程にしゅんとしながら、は先刻まで中也が転がっていたソファに座る。頬杖を付いて消沈する彼女を苦々しい顔で眺めてから、中也は悪あがきの言葉を紡いだ。
「異能があるので問題ありません。命令があればいつでも出ます」
おやおやと呆れたような表情のに、真面目なのか見栄なのか、はたまた強がりなのか負け惜しみなのか、中也自身にもよく分からない感情に苛まれて、から目を逸らした。
「確かに支障は無いだろうけどね。怪我をした人を駆り出す体面の悪さと不信感の影響が、何れ程の物かを想像するといい」
一時の感情で左右されるなと釘を刺され、中也は押し黙る。先ずは座りなさいと有無を云わせぬ口調に背を押されて、の隣に腰を下ろすと、彼女は頷いた。
「君に与えた部下はそんなに頼りないかな。他人の目に自分を如何魅せるかを考えなさい。人の上に立つならね」