第5章 ゆるふわ
周囲の動向に注視するよう云い置いては立ち去ろうとする。中也の隣から席を立つ彼女の香りに心許なさを覚えて、其の細い手首を捉えた。驚いて振り返るを見上げる中也の目に、剥き出しの感情が灯る。
「もう少しだけ…」
傍にいて欲しい。情けなさに嫌気が差して、中也は言葉を飲み込んだ。負傷に止まらず、自分の不手際を諌められて、慰められようとは、何と浅ましい振る舞いか。掴んだ手をするりと引っ込めて、中也は俯く。
拗ねた子どものような顔で視線を逸らす中也に、は思わず手を伸ばした。くしゃくしゃと頭を撫でてから、ふわりと頰に触れると、口をへの字に曲げた中也が顔を上げる。
酷い表情だと苦笑しながら、は中也の頭をこねくり回した。暫くの間されるが儘だった中也だが、の指先が触れた肌から湧き出る甘い疼きに耐えきれず、彼女の腕を引っ掴んで、抱きしめる。中也に倒れこむの腰を捉えて引き寄せ、膝に乗せた。
愛しい人が跨っているという事実に、中也の葛藤は急速に薄れ、身体が大きく反応する。思考を放り投げた脳が本能に成り代わり、彼女に口付けたいと両手を伸ばす。
「しょうがない子だね」
は苦笑して其の手を受け入れた。