第4章 太宰のくるみ割り人形
Moderato Assai
恐らく発信機が仕込まれている其れを、手元に置いておくのも腹立たしい。電話が…と呆然とするに、太宰であれば其処まで織り込み済みで、用があれば自分にかけてくるだろうと見積もり、中也はに向き直る。
寒さに震えていた身体は温まったか、頰に赤みがさして、顔色もよさそうだ。
「襲われてェのかよ」
余りにも無防備な様相で飛び出てきたの前に立ち、中也は彼女を見下ろした。たっぷり時間を使って3度瞬きをしてから、は口を開いた。
「…どうぞ」
予想外の切り返しに、中也は魂消て一瞬言葉を失う。舌打ちをして、太宰に絆されたかと問いかければ、彼女は驚いたとばかりに目を見開いて首を振った。
「太宰さんは私に、仕事の話しかされませんよ」
太宰が側に置く女に手を出してもいない事に、細やかな違和感を覚えつつ、中也は後頭部を掻いた。
「じゃあ俺が喰ッちまっても良いんだな」
相も変わらずどうぞと繰り返す女を、中也は押し倒して組み敷いた。