第4章 太宰のくるみ割り人形
Andante non troppo
中也が用意された書類に一通り目を通した頃、は馬鹿みたいに分厚いファイルを3つ、机に並べた。詳細が必要な案件を伝えると、彼女はご丁寧に色分けされたファイルから紙束を取り出して、順に並べ置く。成る程、此奴は優秀だなと、近ごろ中也に仕事を押し付けなくなった太宰を思い浮かべた。
「手前、何時から太宰の下にいる」
不要と判断された歯抜けの書類を手早く整えながら、は一瞬だけ顔を上げて、2か月前からですと、和やかに答える。太宰が大人しくなった時期と合致している。
礼儀正しく、対人業務も問題なさそうだ。此れは面倒事を全部此奴に押し付ける算段だなと、火を見るより明らかな思惑に、中也は呆れ果てる。
飲み干した茶器を新しいものと取り替えながら、中也が荒らした紙束を整えるの背中に、部屋の奥から盛大な溜息が降りかかった。
「…そんな小動物にお茶なんて出さなくていいから、早く追い出して。うう…部屋の瘴気が濃くて、必要な資料を取りに行けなーい!」
「餓鬼かよ!青鯖の癖に駄々捏ねてンじゃねェよ!」
会話の槍試合を巧みに避けながら、は書棚から幾つもの本を取り出し、太宰に手渡した。