第4章 太宰のくるみ割り人形
Allegro giusto
「嫌だ嫌だ。何で中也なんか連れて帰らないといけないんだ。拠点でまで顔見たくないよ。そうだ、後で資料だけ送るから自分で何とかしてよね。嗚呼、ご免ご免、ゴリラには無理か、文字なんて読めなかったよね」
「五月蝿ェポンツク、少しは黙ッてろ。大体、手前が勝手に出した報告書の中身くらい自分で管理しやがれ。一周回って馬鹿にも程があるぜ」
「私の報告書なんて中也が見て分かる訳がないでしょ。神経細胞の数が違うんだから。ただいま。気持ち悪いから其処から先は入らないでよ。私の執務室が蛞蝓でベトベトになるのは嫌だからね」
太宰と中也は、二人揃って、任務帰りに組織本部内を練り歩く。何時も通りの会話の最中に太宰の執務室に辿り着くが、先刻の文章と文章の合間に、不可解な挨拶の言葉が挟まっていた所為で、中也は口角を痙攣らせた。
此奴ただいまっつったか?今…
挨拶なんてできる奴だったかと、明後日の方向を向いた感想を抱きながら、其の不自然さに身体中がむず痒くなる程の悪寒を覚える。
「お帰りなさい」
部屋の奥から響いた女の声に、いよいよ奇怪な物事でも見たような顔で執務室に踏み込むと、太宰が外套と荷物を其の女に持たせる姿を目撃してしまった。