第3章 夏祭【夏休み企画 心の重力番外編】
「生き神さま」
お揃いの浴衣の姉妹が、を覗き込んで呼びかける。裏手の階段を駆け上ったか、息を切らしている子どもたちの姿に、は気遣わしく手を伸ばして、其の頰を撫でた。
手前は何時の間に生き神に成ったンだと、中也の腕を離れてゆくの温もりに心許なさを覚え、心の中で悪態を吐く。稲荷が根付いた土地で、狐を駆るが信仰の対象と成ることは想像に容易いが、彼女を人目に晒すことを良しとしない独占欲に苛まれる。
手に手に屋台のお八つを持って、にひとつ、あげると手渡す姿は、童心ながらも彼女への情が見て取れる。其れを受け取るが、愛おしげな目で子ども等を撫でるのを、彼等は嬉しそうに受け止めた。
「おむこさんにも、あげる」
何の戸惑いもなくそう呼ぶ童女に、中也は面食らって片眉を上げた。一瞬目を見開いたは、口もとに手を当てて笑いをかみ殺す。
「生き神さまの指輪はあなたの目の色だし、耳飾りはあなたの髪の色だから」
少し背の高い姉の方が、利発そうに話す。間違いだったかと眉尻を下げる子に、は首を振って肯定してしまった。