第3章 夏祭【夏休み企画 心の重力番外編】
焦げ付くような日差しから熱帯夜に向かう、狭間の夕刻。傾いた日差しが、境内で戯れる子どもたちの影を大きく伸ばす。お揃いの浴衣を着込んだ姉妹が、風車を片手に走り回る様子が見えた。
此の辺り一帯の土地神である稲荷神社の夏祭は、例年通りの人出で騒がしい。境内を通り抜け、更に長い階段を登った先にある此の奥の院からは、参道にひしめき合う縁日の屋台と、狭い通路で押し合う人々がよく見える。
人で溢れかえる中に、身体の弱いを連れ込むのは非道く抵抗があった。当人にも其の自覚があるようで、祭は難しいと首を振っていた。せめてもの気慰めにと、中也は、申し訳程度に祭の装具が飾られた奥の院に、彼女を連れ出す。木々が生い茂った此処から花火が見える訳でもなく、目下の喧騒を遠目に見る程度ではあるが、夜風に回る風車にも、爽やかに揺れる風鈴にも、祭の風情がある。
組織もいくつか屋台を出すと聞いてはいたが、探す気にもなれない程の大混雑に、ひとつ溜息を吐いて、中也は隣に座るの肩を抱き寄せた。普段の着物よりも淡く薄手の浴衣から、彼女の体温を感じる。突然のことに、些か驚いて見上げたは、其の儘甘えるように中也の肩にもたれかかった。