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【文豪ストレイドッグス】中原中也短編集

第2章 真夏の邂逅


夜半に、中也は大隊を連れて、黒蜥蜴が制圧した高級宿に合流した。買収した宿からは、最早一般客すら逃げ出して、組織御一行の貸切状態である。制圧ついでにガス抜きでもしてやるかと、中也は連れてきた構成員を全て宿にぶち込んだ。

宿付属の施設を確認するも、広津が先刻に大捕物を行なったというプールに使用不可の立て看板が置かれていた。其れ以外は如何使っても構わないと云う宿の言質を取って、部下に伝える。金に物を云わせたが、偶の羽伸ばしにしては悪くない。金のある企業の持つ保養地として格式の高い部類であり、良く教育された従業員が多い所為か、話が早い。

海だ酒だと騒ぐ部下たちに、明日にしておけと適当な声をかけて、中也は銀の状況を確認する。未だ逃げる素振りも無いと云う女に、人質の父親はもう死んでいると伝えたら、如何動くだろうと悩ましく思う。組織顔負けの手段で彼女を得た亡社は、彼女を捉えた侭、最期を迎えた。唯一の肉親である父親を亡くして、縛るもののない彼女を、組織に引き入れる手段が見当たらない。

中也が逆立ちしても得られそうもない学識を抱えた女が、如何云う人間なのか、確認できたのは翌朝のことだった。

浜辺で肉を焼いては海に飛び込むという道楽を執行する最中、余りにも無防備に、肌を曝け出した水着の女が浜辺を横切った所為で、部下が沸き立つ。真逆と黒蜥蜴の顔色を確認すると、揃いも揃って、其れだ其奴だと指し示すので、中也は否応なしに止めに入った。軽く会釈する姿に、凡ゆる先入観を以ってしても、彼女の溢れる胸に視線が向いてしまう、己の雄が憎い。

照りつける太陽の下、艶かしい肢体を投げ出して海を漂う女に、中也は額を押さえた。溜息を漏らす中也に、立原が耳打つ。

「ずっとあの調子で、毒気抜かれちまうんです」

本当にあれが件の麒麟児かと疑う立原に、中也は後頭部を掻きながら、片目で答える。

「エリス嬢を追い回す首領を見て、同じ事云えンのかよ」

見た目で判断するなと云いながら、中也は頭の中から、先刻目に焼き付いてしまった彼女の胸の谷間を追い出した。潜入者とアロハシャツの証言は合致した。人事の探りも確かで、彼女の父親を看取ったという医者の供述にも整合性がある。

「在れが虎の子で間違いねェよ」
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