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【文豪ストレイドッグス】中原中也短編集

第2章 真夏の邂逅


首領からの命令は、何時も通りの殲滅だ。しかし、今回に限っては但し付きだった。

「下部組織の中でも、比較的大きな武器商でね、兵器の研究開発も内包している。技術や知識を根絶やしにしてしまうには惜しい資産だ。分かるね」

其の条件に承知して、中也は現地に向かう。道すがら、先遣の黒蜥蜴から現状の報告を受けるが、上層部は社を捨てて脱走、機材及び保有データの喪失と、多数の技術者の死亡が確認されていた。其の粗末さたるや、いっそ清々しいとさえ思える程の始末だ。

黒蜥蜴に、脱走した上層部の人間たちが身を隠しているという、高級宿の買収と宿泊者名簿の入手を指示して、中也は社に踏み込む。潜入していた構成員の情報と、社員名簿から目星をつけた人間を、片っ端から捕獲したが、社内には焼け焦げた硝煙の爪痕と、生き絶えた社員が点々と転がっていた。

其の中でも、明らかに組織の手口ではない破壊の痕跡が、複数ある。見取図上、共通して、研究室と思われる場所は、機器ごと全て破壊され、技術者たちは事切れていた。特に社にとって稀有な資産であったはずの、お偉い博士の姿が無いだけでなく、博士を筆頭とする研究班の所有する研究室からは、生きた者の気配が消えていた。

不自然な程に徹底して破壊された施設に、中也は眉根を寄せる。何らかの証拠隠滅にしても、社の情報漏洩対策にしても、此れでは失ったものの方が多かろう。どうせ潰す組織ならば、全て無傷で明け渡せば、そう悪い扱いはしなかったのにな、と溜息を吐き捨てた。

「中也さん!博士の班の研究員を一人、確保しました!無傷です!」

此の惨劇の中、よく無傷で生き残ったと中也が振り返ると、施設の惨状には不似合いのアロハシャツと半ズボンが、目に飛び込む。中也が訝しげに其の身なりを眺めるので、彼を連れてきた構成員は、経緯を説明せざるを得なかった。

「休暇で高級宿に宿泊中のところを確保しました。社に忠誠心は無く、組織に乗り換えることを了承しています。博士の安否と研究資料の確認をしたいと言うので、連れてきました」

確認も何もと、中也は顎で荒れ果てた室内を指し示す。ついでに、博士は未だ見つかってはいないことを告げた。
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