第5章 おとぎのくにの 3
「だから自分で持つって言ってるだろ」
「そういう訳にはいきませんってば!」
「じゃあどうしろって言うんだ…」
「量を考えてくださいと言っているんですよ!」
わーわー言い合っててもお互い本気ではないし、どっちも目が笑ってしまってる。
文句を言ってはいるが、しっかり鍛えているトウマにはまだ余裕がありそうだし。
こんな口喧嘩なんて言葉遊びみたいなものだ。
最初はオロオロしていたカズも、今日はもう何度もこんなやり取りを見ているからか、だいぶ慣れたようで。
クスクス笑いながら微笑ましそうに見ていたけれど、トウマがしつこくぼやいていると、突然その手をトウマに向けて差し出した。
「トウマさま、私も持ちます。荷物を分けてください」
「ええっ!?」
途端にトウマが焦り出す。
「いやっ!カズさまに持たせるなんて、もっと出来るわけないですよ!」
「私は侍女ですから…どうぞ遠慮なく」
カズはニコニコしながら、手を差し出したままトウマに近づいて行くけど。
力仕事なんてしたことがないであろうその腕は折れそうに細くて。
そんなことさせられるわけがない。
カズに持たせるくらいなら俺が持つ!
「カズさまに持っていただくくらいなら、ジュンさまに持たせますから!」
「そうだぞ、カズ。俺が持つから大丈夫だ!」
トウマも同意見で。
普段なら突っ込みを入れたくなる言い草だが、今は目を瞑る。
「まぁ!いけません!ジュンさまに持たせるだなんて!」
でもカズは納得してくれなくて。
差し出した手を引っ込めようとしない。