第5章 おとぎのくにの 3
俺が先に食べた方がカズも安心するかと思ったんだけど、かえって断りにくくなっちゃったかな。
美味しかったからカズにも食べさせてあげたいと思っただけで、別に無理強いする気はない。
「食べたくないなら無理する必要はないよ?」
「…いえ、いただきます」
そう声を掛けたけど、カズは意を決したようにぱくりと一口かじった。
「……っ!!」
途端に声にならない声をあげて目をぎゅっと瞑る。
思っていた以上にすっぱかったらしい。
ふるふるしているカズには悪いけど、すっぱさに耐えている様子はめちゃくちゃ可愛くて。
思わずふふっと笑ってしまった。
笑い声が聞こえたのか、カズは目を開けると少し恨みがましい顔をして俺を見た。
口には出さないけれど、その目は『美味しくない、うそつき』と訴えていて。
こんな表情も初めて見る。
じとっとした視線も、カズの素の部分を見れたみたいで嬉しい。
「あっはっは!そんなにすっぱかった?ごめんごめん!こっちは甘いから、お口直しにどうぞ」
おばさんはカズの反応がよほど面白かったのか豪快に笑うと、カズに違う果物を差し出してくれた。
「…ありがとうございます」
カズは一瞬躊躇ったものの、よっぽどすっぱかったのか、今度は素直に受け取って口に運んだ。
「あ、これは甘い…美味しいです」
今度は口に合ったらしい。
にっこり笑ってモグモグしている。
その姿があんまり可愛かったから、店のおばさんが上機嫌になって、トウマが呆れて笑うくらい買い込んでしまった。
お土産だからいいんだ、うん。