第5章 おとぎのくにの 3
カズは試食の一件で何かを乗り越えたのか、単純に慣れて来たのか。
また人混みに紛れて歩き出したが、俺がカズの手を引いていたのは最初だけだった。
気が付いたらカズが俺を引っ張るように前を歩いていて。
目をキラキラさせながら次々と露店をのぞいていく。
「ジュンさま、次はあちらへ!あ、その前にこちらも!」
「はいはい」
正直カズに振り回されている状態だけど、誰かに振り回されるなんて滅多にないから新鮮で楽しかった。
相手がカズだからそう思えるのかもしれないけど。
「ジュンさま、あれは何でしょう?」
「ジュンさま、これは何をするものですか?」
カズは気になるものがあると、どんどん質問してきて。
俺にも分からないことは、トウマに聞いて。
トウマにも分からなければ店の人に聞いて。
こんな積極的な姿見たことない。
見て、聞いて、触れて、食べて…
今のカズは全身で色々なことを吸収しようとしているみたいに見えた。
「ジュンさま!ジュンさま!」
普段よりワントーン高い声。
弾けるような笑顔、好奇心に輝く瞳。
子どもみたいにはしゃいで、いつもより良く喋って良く笑って。
俺が見たいと思っていた、たくさんの初めて見るカズの姿。
実際に見ることが出来てすごく嬉しい。
今日カズを連れてきて良かったと心から思う。
新しいカズを見つけるたびに、好きな気持ちが増えていく。