第5章 おとぎのくにの 3
この市場はわざわざ遠方から来て出店している店も多くて。
普段なかなか目にしない珍しいものもたくさんあって面白い。
人混みの中を歩きながら、カズだけじゃなくて俺もついキョロキョロしてしまう。
不用心かもだけど、すぐ後ろでトウマが周りに気を配りながらしっかり警護してくれてるから安心しちゃってるんだよな。
「そこの可愛いお嬢さん、良かったら食べてみて!」
「えっ…わ、私ですか…?」
珍しい野菜や果物の並ぶ露店を眺めていたら、店のおばさんがカズに声を掛けた。
ニコニコしながら手にした果物を差し出してくる。
市場ではよくある光景だ。
まずは味を知ってもらうために試食させてくれる店は多い。
でもそんなことを知らないカズは、知らない人に急に声を掛けられたことに驚いてしまっていて。
戸惑ったように俺を見るから
「味見させてくれるって」
先に俺が受け取って口に入れた。
カズはそれを目を丸くして見ている。
「すっぱ!…あ、でもちゃんと甘味もあってうまい」
「そうでしょ!この辺りにはあまり流通してない果物なのよ」
初めて口にしたその柑橘系の果物は酸味が強くて少し苦味もあるけど美味しくて。
パクパク食べたら、おばさんが得意げに教えてくれた。
「美味しいからカズも食べてみなよ」
もう1つもらって差し出すと、カズは恐る恐る受け取って手の中の果物をじっと見つめている。
それは初めて目にする食べ物に対する戸惑いなのか…
それとも知らない人間から突然渡されたものに不信感があるのか…
はたまた外で立ちながら手掴みで食べることに抵抗があるのか…
もしかしたら全部なのかな。