第5章 おとぎのくにの 3
ふふ、ほら。
またキョロキョロしだした。
少し歩くうちに俯きがちだったカズの視線がまたあちらこちらに動き始めた。
きっと今は、カズが常に気にしている身分のことよりも、好奇心の方が勝っているんだろう。
目に映るほとんど全てのものが初めて目にするものなんだから当たり前のことだと思う。
今は遠慮も恥ずかしさも忘れて、純粋に楽しんでほしい。
カズの手を引きながら、カズのためにゆっくりゆっくり歩く。
カズはキョロキョロしながら大人しくついてきていたけど、一軒の店の前でピタリと足を止めた。
「可愛い…」
カズがじっと見つめるショーウィンドウには色とりどりの菓子が可愛らしく並べられていた。
「ここは街でも評判のお菓子やケーキを扱う店です。この砂糖細工のお菓子が若い女の子たちに大人気みたいですよ」
トウマが指差す先には、砂糖で作られた小さな花やリボンたち。
「なんでトウマがそんなことを知ってるんだ?」
「今日のことが決まってから色々情報を集めたんですよ。城の侍女たちにオススメを聞いたりして」
「なるほど」
侍女に聞いたというのはカズのためだろう。
確かに女の子の好きなものなんて、俺たちには分からないもんな。
年の近い女の子に聞くのが一番だ。
トウマめ、気が利くじゃないか。
カズも食い入るように見ているし、やっぱり女の子はこういうものが好きなんだな。
「カズ、ほしいの?」
「いえ、あの…サトさまへのお土産にどうかと思って…」
そんなに気に入ったなら買ってあげようかと声を掛けると、カズは照れたようにはにかんだ。