第1章 おとぎのくにの
なんとか時間までに身支度が整い、お客さまを出迎えるために玄関ホールへ向かう。
泣きそうな顔のままのカズの手を引いてゆっくり歩いた。
普段は私よりもしっかりしているカズも、こうしているとやっぱりまだまだ幼くて。
可愛くて守ってあげたくなる。
「私がついてるんだから大丈夫」
「サトさま···」
握ってる手に力を入れると、カズは潤んだ瞳ですがるように私を見る。
そんな様子も子犬みたいで可愛いけど。
「ほら、笑って!可愛い顔が台無し!」
繋いでない方の手でカズの頬を無理やり持ち上げると、カズは眉毛を下げたまま困ったように笑った。
玄関ホールには既にお母さまが待っていて。
手を繋いで現れた私たちを見て目を輝かせた。
「まぁ!そうしていると本当の姉妹みたいね。新しいドレスも2人ともとても似合ってるわ」
ずっと娘が欲しかったというお母さまは、カズのことも本当の娘みたいに可愛がっている。
カズもそれを分かっているから普段はここまで嫌がることなんてないけど、今日はお客さまがいらっしゃるから萎縮してしまっているんだろう。
私たちが着いて間もなく、お客さまの到着が告げられた。
「ようこそいらっしゃいました」
「本日はお招きくださりありがとう」
お母さまがよそゆきの笑顔で優雅に礼をすると、王妃さまも優しそうな笑顔を浮かべる。
けれど畏まっていたのは一瞬で
「久しぶりねー!」
「元気にしてた?」
まるで娘時代に戻ったかのように、手を取り合いきゃっきゃとはしゃぎ出した。
本当に仲が良いのが伝わってくる。
視線をずらせば、王妃さまの向こうに男の子が2人お行儀よく立っているのが見えて。
胸がドキンと鳴った。