第5章 おとぎのくにの 3
「人が多くて驚いた?」
「はい…人も多いですし、建物がこんなに密集しているのも何だか不思議で…」
カズは公爵邸しか知らない。
広大な敷地に建つ大きな屋敷しか目にしたことがないカズには確かに不思議な光景に見えるのかもしれない。
「ここはこの街で一番大きな通りなんだ。今日はこの先の広場で市場が開かれてるから人が多いんだと思う」
様子を伺うように辺りを見回すカズに説明する。
「これからその市場に行こうと思ってるけど、それでいい?」
「はい」
カズが断るわけないけど、それでもちゃんと確認して。
トウマが迎えの時間を確認して馬車を帰すのを待って、広場に向かって歩き始めた。
最初は恐る恐る歩いていたカズも、しばらくすると少し慣れたのかキョロキョロと視線を左右に動かし始めた。
カズの目から怯えの色が薄れて、好奇心が見え隠れし始めた気がする。
でも楽しみ始めてくれたのはいいけれど、人混みに慣れていないのに余所見ばかりしているカズは危なっかしい。
何度も人や物にぶつかりそうになっていて、見ているこちらがハラハラしてしまって。
思わずカズの小さい手を捕まえて握りしめた。
だって、ぶつかって怪我をしたら大変だし。
はぐれて迷子になっても大変だし。
……うん、正当な理由だ。
決してカズに触れたかったとか不埒な思いからじゃない。
これはカズのためだ。
心の中で誰に向けてでもなく言い訳を並べた。