第5章 おとぎのくにの 3
「カズ、今度はこちら側に座って」
「…?…はい」
再び馬車に乗り込むと、今度は先程までと座る位置を交代した。
カズは首を傾げながらも素直に従う。
進行方向に向かって座った方が酔いにくいとトウマから聞いたんだ。
ついでに窓も全開にする。
風に当たっていた方がいい気がしたのと、景色を見ていれば気も紛れるんじゃないかと思って。
流れる景色を眺めるカズは楽しそうで。
やっぱり少し酔ってしまっているみたいだけど、さっきより全然良さそうだった。
少しずつ民家が増えてきて、カズの目には期待と不安が交互に浮かぶ。
馬車は街へ入ると、中央通りの端に静かに停まった。
ここはこの街の一番大きな通りで、色々な店が軒を連ねている。
通りの先には広場があって、今日は月に一度の市場が開かれる日だ。
そこにカズを連れて行きたいと思って今日を選んだんだ。
でも市場のせいでか、この通りも人が多くて。
馬車から降りたカズは怯えたように立ち竦んでしまった。
「カズ?大丈夫?」
「…はい、申し訳ありません」
心配になって声を掛けると、カズは頭を下げる。
「謝らなくていい」
カズにとっては何もかもが初めてなのだから、圧倒されて当たり前だ。
そんなの謝るようなことじゃない。