第5章 おとぎのくにの 3
そのまま暫くその場で休憩することにする。
こんな何もない場所ではなく早く街へ行きたいと思う気持ちはあるが、カズの体調が最優先だ。
カズは、時おり吹き抜ける風に気持ち良さそうに目を細めながら辺りを興味深そうに眺めていたが
「どこにも塀がない…外の世界はこんなに広いのですね…」
ふいにポツリと呟いた。
そのとても小さな呟きは、カズの純粋な感想だったんだろう。
悲観する響きなど全くない。
ただ驚き感心しているだけ。
でも俺は少しだけ胸が苦しくなった。
俺の目には何の面白みもない空間にしか見えないこの場所が、カズの目にはどう映っているのだろう。
こんな何でもない景色に感動するカズに、もっと色々なものを見せてあげたいと思った。
俺だって限られた世界で生きていて、まだ知らないことだらけだけど。
カズと一緒に色々なところへ行って、一緒に世界を広げたいって…そう思った。
今日はその第一歩だ!
「カズ、気分はどう?街まであと少しだけど、頑張れる?」
カズの顔色がだいぶ良くなったのを確認して声を掛ける。
「はい、もう大丈夫です。ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした」
「迷惑なんかじゃない。だから、もし体調が悪いなら正直に言ってほしい。絶対無理したり隠したりするな」
「…はい、ありがとうございます。でも本当にもう大丈夫です」
ニコッと笑う顔は無理をしているようには見えなかった。
本当に大丈夫そうだな。
「分かった。じゃあ出発しよう」