第5章 おとぎのくにの 3
「うるさいっ!お前がカズを呼び捨てにするなんて絶対許さないからな!」
「心が狭い男は嫌われますよ~」
「お前っ!クビにするぞっ!」
「またまたー、俺が居なくなったら寂しいくせに」
もちろん本気ではないし、それはトウマも分かっている。
こんなの俺たちにとっては日常茶飯事なやり取りだ。
でも初めて目の当たりにしたカズにはそんなこと分かるわけなくて。
「ジュンさま…トウマさま…」
青ざめた顔でオロオロしている。
まただ。
カズには笑顔でいてほしいのに、すぐにこんな顔をさせてしまう。
「カズ、そんな顔をするな。これは…その、兄弟喧嘩みたいなものだから…」
「兄弟喧嘩…ですか?」
急いで弁解したら、カズの表情が少し和らいだ。
「そうですよ、ジュンさまは本気で怒っているわけではないですからね。ただ羨ましかっただけで…」
「トウマっ!!」
「羨ましい…?」
余計なことばかり言うトウマを遮ったが、カズは首を傾げるだけで。
俺の想いはカズには全く届いていないようだ。
「とにかく、カズがトウマと呼ぶのも、トウマがカズと呼ぶのもダメだ!!理由は俺が嫌だから!!」
我ながらめちゃくちゃな理由だと思うが、嫌なものは嫌なのだから仕方ない。
力強く言い切ったら、トウマは盛大に吹き出して、カズはキョトンとして頭の上にいくつもクエッションマークを浮かべていた。
「くくっ……ジュンさまがこう仰ってますし、お互いさまということで…今まで通りで…」
「……はい、分かりました」
それでもトウマが笑いながらそう告げると、カズも素直に頷いた。