第5章 おとぎのくにの 3
どうせならカズと2人きりが良かったけど。
まぁ、トウマなら一緒にいても堅苦しくはないし。
それに万が一にでもカズに何かあったら悔やんでも悔やみきれないから…
仕方ないか…
小さくため息を吐いて気持ちを切り替える。
せっかくカズと出掛けられるのに、いつまでもこんなことに時間を使っていたら勿体ない。
「そろそろ行こう」
「…はい」
カズに声を掛けたら、またその顔が緊張でギュッと強ばったけれど。
「サトさま、行ってまいります」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「はい」
サトに挨拶をすると、差し出した俺の手にそっと手を重ねてくれた。
「サト、行ってきます」
「いってらっしゃい。楽しんできてね」
「ありがとう」
俺もサトに挨拶をして、そのまま馬車までカズをエスコートしていく。
「足元気をつけて」
「ありがとうございます」
恐る恐る馬車に乗り込むカズに続くと、トウマが扉を閉め自分は御者の隣に座った。
せめて車内だけでも2人きりにしてやろうという配慮なのか、単に見張りのためなのかは分からないけど。
何だっていいや。
カズと2人きりになれたのは単純に嬉しい。
向かい合って座ったカズを正面から眺める。
カズは物珍しそうに車内をキョロキョロ見まわしていて。
普段は物静かで落ち着いているカズの、いつもと違う姿を見れたことにますます嬉しくなる。
今日はこれからもっと色んな表情を見れると思うとワクワクした。