第5章 おとぎのくにの 3
「ねぇ、カズ。これはお願いなんだけど…」
ちょっと改まった声を出してみたら、カズはすぐに気付いてパッと顔を上げた。
「私がいつかショウと出掛ける時のために、下見をしてきてくれない?」
「下見…ですか?」
おずおずと聞き返すカズににっこりと笑いかける。
「そう。私もなんの予備知識もなく外に出るのはこわいもの。だから街というのはどんなところなのか、どんなお店があるのか、どんな人々がいるのか、カズが先に見てきて私に教えてくれたら安心だわ」
いくらお願いという言葉を使ったとしても、カズからしたら命令と変わらないと思う。
でも、これでもう行かないとごねたりはしないはず。
ただ遊びに行くのではなくて、たった今これは仕事になったのだから。
それも私の不安を取り除くためならば、カズは自分がしっかりしなくてはと思うはず。
本当は私は不安よりも期待や楽しみな気持ちの方が大きいから、嘘をつくのは若干心苦しいけれど。
私が怖がるフリをすることで、カズの不安が薄れるのなら、許されるんじゃないかと思う。
現にカズの涙は止まって、表情もシャンとした。
「…分かりました。サトさまのために色々見てまいります」
「うん、お願いね」
もし本当にカズが心から行きたくないと思っているのならば、私だってこんな強制するようなやり方をしてまで行かせようとは思わない。
でもそうじゃないと分かっているから、背中を押してあげたかった。
「でもちゃんと楽しんでくること!これは命令だからね!」
「ふふ…はい、分かりました」
最後にわざと怖い顔を作って念押ししたら、やっとカズが笑ってくれた。
「サトさま…ありがとうございます」
深々と頭を下げたカズは、きっと私の考えていることも全部分かっているんじゃないかと思った。