第5章 おとぎのくにの 3
カズの気持ちも私には分かる。
私たちは今まで一度もお屋敷の外に出たことがない。
ここが私たちの世界のすべて。
もちろんこのお屋敷の外にも世界が広がっていることは知っているけれど。
それは私たちには関係のないどこか遠い世界のことのような、現実味のないものだった。
それを突然現実のものとして目の前に突き付けられて、半ば強制的に未知の世界へ連れ出されそうになっている。
そんなの怖いに決まってる。
特にカズは臆病なところがあるから…
どれほどの不安を感じているのか、簡単に想像出来る。
でも、本当は心の奥底には。
恐怖心だけではなくて、外の世界への憧れや好奇心だってあることも知っている。
幼い頃からカズと2人。
物語を読みながら、その挿絵を見ながら。
王城とは、街とは、一体どんな場所なのか。
そこで働き暮らすのは一体どんな人々なのだろうかと、何度も想像しては語り合って。
想像の世界に思いを馳せ、いつか実際にこの目で見られる日を夢見てきた。
それは決して私だけではなくて、カズも同じはず。
それでもカズがここまで拒む一番の理由は、私が一緒に外に出ることが出来ないから。
侍女であるカズは、主である私を差し置いて自分だけ外の世界に行くなんてあり得ないと思っているのだ。