第5章 おとぎのくにの 3
でもジュンはそれでは納得出来なかったらしい。
「いや!今からでも遅くない!俺にカズの誕生日を祝わせてよ!」
「えぇっ…」
ジュンが高らかに言い放つと、カズは小さく戸惑った声をあげた。
「カズの欲しいものを教えて」
ものすごい目力で見つめられたカズは頰を赤く染めながら、しばらく考えていたけれど
「………なにも」
やがて静かに首を横に振った。
「何も?」
「ないです……」
ジュンは少し困った顔になった。
「ドレスは?」
「奥さまにいただいたドレスがたくさんありますし、そもそも侍女の私にドレスは必要ありませんし…」
「宝石は?」
「そんな高価なもの…身につける機会もありませんのに…」
あれこれジュンが聞いても、カズは首を横に振るばかり。
たぶんジュンが挙げているものは普通の女の子なら喜んで欲しがるものなんだろう。
でもカズの心には全く響かないようだった。
もちろん遠慮も多大に含まれているとは思うけれど、改めて考えてみると、カズにはそういう物欲があまりない気がする。
ずっと一緒にいるけど、そういえばカズが何かを欲しがったりするのを見たことも聞いたこともない。
少なくとも私が思い出せる記憶の中にはない。
「本当に欲しいものは何もないの?」
「はい」
「………分かった」
やがて根負けしたのはジュンだった。
ものすごい渋々だけれど、贈り物は諦めたようだ。
カズは目に見えてホッとしていた。
でもジュンはカズを祝うことを諦めてはいなかった。
「ものじゃなくて、何かカズが喜ぶことを考えるから!また連絡する!」
帰り際そう言い残して、カズが何か言う間も与えずに去って行って。
残されたカズは困りきった顔をしていた。