第1章 おとぎのくにの
部屋に飛び込むとすぐに待ち構えていた侍女たちに取り囲まれた。
「どこにいらしてたんですか!?」
「急がないと間に合いませんよ!」
「サトさま!どうしてお髪に葉っぱが絡まってるんですか!?」
「また庭で昼寝されましたね!?何度もお止めくださいと申しておりますのに!」
てきぱきと手を動かす侍女たちから小言が降り注ぐが、今日は全く気にならない。
このあとのことが楽しみすぎて、そんなことどうでもいいのだ。
私は生まれてから一度もこの屋敷から外へ出たことがない。
少し心配性なお父さまやお兄さまたちが、外は危ないと口を揃えて言うからだ。
茶会などにも参加したことがないから、私には年の近い友だちがいない。
私にはカズがいるし、お兄さまたちも頻繁に顔を出してくださるから、さみしいと思ったことはないし、特に不満を覚えたことはない。
それでも外の世界や友だちというものへの憧れはほんのりとあった。
そんな私に、今日初めてのお客さまがいらっしゃるのだ。
お相手は、この国の王妃さまと第6王子と第7王子。
何故そんな高貴な方々が我が家へいらっしゃるかと言うと、私のお母さまが現国王の年の離れた妹だから。
そして王妃さまはお母さまの昔からの親友なんだそう。
前王妃さまは病でお亡くなりになり、現王妃さまは後妻にあたる。
王子さまは7人いらっしゃって、そのうち今日いらっしゃるお2人が現王妃さまの生まれたお子になる。
私は知らなかったけれど、王妃さまは今までに何度も何度も何度も何度も王宮へ遊びにくるよう誘ってくださっていたらしい。
それを何だかんだと理由をつけてはお父さまがお断りしていたそうで。
何度誘っても断られることにしびれを切らした王妃さまは、“来ないならこちらから行く!”とお忍びでの訪問を決めたそうだ。
私の従兄弟でもある王子さまたちは、私と年が近いと聞いた。
同年代の男の子というのは、どんな感じなのかしら?
期待と緊張の入り交じったドキドキを抱えながら、今日のために誂えられた新しいドレスに袖を通した。