第1章 おとぎのくにの
ーサトsideー
広いお庭の一角にある、私の秘密の場所。
植木や花で覆われたその奥にパッと見ただけじゃ気付かない空間がある。
周りから程よく遮断されていて、でも空がよく見えて。
私はここでお昼寝するのが大好き。
みんなは“公爵家のご令嬢が地面に寝そべるなんて!”とか“日焼けしてしまうからあまり陽に当たるな!”とか口うるさく言うけれど。
こんな気持ちが良くて幸せになれることをやめる気はさらさらない。
今日も侍女たちに見つからないようにこっそり部屋を抜け出して、ウトウトと気持ちよく微睡んでいたのに
「サトさま!起きてください!」
すぐに、よく耳に馴染んだ声に起こされた。
それでも目を閉じたまま寝たふりをしていたら、小さな手に体を揺すられる。
「寝たふりなのはバレてますからね!起きてくださいってば!」
「もー!カズうるさい!」
「ひゃっ」
その手を掴んで引っ張ったら、カズは簡単に倒れ込んできた。
カズは侍女だけど大切な友だち。
この場所もカズにだけは教えてあげた。
だからこっそり隠れていても、こうやってすぐ見つかってしまうんだけど。
「サトさま!離して!」
「いや。一緒にお昼寝しよ」
カズをぎゅうっと抱き締めて、また目を閉じる。
カズはジタバタ暴れてるけど、非力だから逃げられないみたい。
「サトさま、寝ないで!今日は楽しみにされてたお客さまがいらっしゃる日ですよ!」
カズの言葉に目がパチッと開いた。
眠気も一瞬で飛んでいく。
「今日だった?」
「そうですよ!早く支度をしないと間に合いませんよ?」
「大変!」
慌てて起き上がると、今度はカズを引っ張り起こして、そのまま屋敷に向かって走る。
「サトさま!走らないでください!」
“淑女たるものいついかなるときも穏やかにたおやかに···”と言うのは、私たちの教育係の口ぐせ。
でも今はそんなこと言ってられない。
だって今日は待ちに待った日!
うっかり忘れていたけれど、それはひとまず棚に上げて、カズを引っ張って走った。