第16章 おとぎのくにの 8
「もともとね、このままじゃダメだって思ってはいたんだよ」
だからユーリに手を引かれた時、思い切って一歩を踏み出した。
家族やカズ、限られた使用人たち以外と接するいい機会だと思ったから。
まぁその時点では、まさかこんな展開になるとは想像もしていなかったのだけれど。
「でも、あの子たちの話を聞いていて、自分が何も知らないことに気づかされたというか…」
今まで家庭教師から自領のことも習って勉強していたから、知識としては色々知っているつもりだった。
でも、つもりなだけだった。
自分の領なのに、私は自分の目で何も見たことがなかった。
領民たちがどんな人たちで、どんな場所でどんな暮らしをしているのかも。
実際にお父さまやお兄さま、お義姉さまがされているお仕事のことも。
私は何も知らなかった。
「知らないことを恥ずかしいと思ったんだよね…」
お父さまやお兄さまたちが尊敬され慕われているのは純粋に誇らしく嬉しかった。
でも私が領主の娘というだけで、子どもたちは私にまで無条件に好意の目を向けてくれた。
私は何もしていないどころか、何も知らないのに。
嬉しさより申し訳ない気持ちの方が強かった。
「それは私も思いました…今日だけではなく、こちらに来てからずっと…いかに自分が何も知らないか、何度も思い知らされています…」
私の話を黙って聞いていたカズがポツリと呟いて、自分を恥じるように目を伏せた。
ああ、やっぱりカズも同じように感じていたんだ…
それはそうだよね。
侍女とはいえ、カズも私とほぼ同じ環境で同じように育ってきたんだもの。