第16章 おとぎのくにの 8
カズにさま付けを拒否された経験があるマサキは、カズの意外と頑固な一面をよく知っていて。
でも子どもたちに呼び捨てにさせるのもよくないと思ったのかな。
「さま付けが嫌ならカズちゃんでいいんじゃない?」
カズに向かって笑顔でそんな提案をした。
「ちょっとマサキっ…」
マサキの提案をふざけていると思ったのか、カズはすぐに抗議しようとしたけれど。
「かずちゃん?」
しっかり聞いていたユーリに遮られて。
何故か急にユーリと歳の近そうな子たちが「かずちゃん!」「かずちゃん!」とカズの周りに集まってきた。
ちゃん呼びで親近感がわいたのだろうか?
子どもたちの読めない行動に驚いてしまう。
「え?え?」
カズもまさか突然懐かれるなんて思っていなかったのだろう。
子どもたちに囲まれて見るからに狼狽えている。
カズは私以上に子どもと接したことがないから、どうしたらいいのか分からないのだと思う。
まぁ、私が接したことのある子どもというのも幼い頃のカズだけなのだけれど。
そして3歳下のカズは幼い頃から物静かな落ち着いた子だったから、この子たちへの接し方の参考にはならず…
困っているカズを助けてあげたいけど、私もどうしたらいいのか分からない。
絶対助けられるはずのマサキはにこにこしながら見ているだけだし。
カズはしばらくオロオロしていたけれど、やがて大きなため息を吐いた。
「かずちゃん?」
「もうそれでいいですよ…」
カズちゃん呼びが定着してしまったユーリに向かって諦めたように小さく笑うと、初めてカズの笑顔を見た子どもたちはキャッキャと喜んだ。
またもやハラハラしながら見ていた年長組の子たちもカズが笑顔を見せたことで安心したようだった。