第16章 おとぎのくにの 8
「こっちだよ!」
子どもに手を引かれるまま歩く。
「ぼくね、のいちごだいすきなんだ!おねえちゃんは?」
「私も好きよ」
「あまくておいしいよね」
「ええ」
子どもとの接し方はよく分からないままだけれど、向こうからどんどん話しかけてくれるから気まずさはない。
「あなたのお名前を教えてくれる?」
「ゆーり!」
思い切って名前を聞いてみると、元気よく教えてくれた。
「ユーリ?」
「そう!おねえちゃんは?」
「サトよ」
「さと!」
たぶんユーリは悪気なく繰り返しただけなのだろうけど、それを聞いたカズは目を吊り上げて怒った。
「無礼な!呼び捨てなんてありえません!サトさまとお呼びなさい!」
子ども相手にも容赦がない。
「さとさま?」
「そうです」
「さとさま!」
でもユーリはカズに怒られても全く怯える様子もなくニコニコしていて。
「おねえちゃんは?」
カズにも名前を尋ねる。
「私?私はカズです」
「かずさま?」
「ちがいます」
ユーリからしたら私とカズの身分の違いなんて分からないだろう。
「ちがうの?」
カズにさまを付けるよう言われたからその通りにしたのに、即否定されてユーリは不思議そうに首を傾げている。
大体侍女とはいえカズだって貴族なのだからユーリは間違っていない。
「ちがいます」
でもカズは頑なで。
そのやり取りを見ていたマサキが苦笑した。