第15章 おとぎのくにの 7
いつもより甘くしてもらったお茶が疲れた体に染み渡るようでとても美味しい。
しばらくはカズもおとなしくお茶を飲んでいたけれど、静かにティーカップを置いたと思ったら、突然私に向かって深々と頭を下げた。
「カズ?」
「サトさま、先ほどは身勝手な行動を取ってしまい申し訳ありませんでした」
どうやらカズはマサキだけではなく、私にも申し訳ないと思っていたらしい。
確かに突然のことに驚きはしたけど、謝られるようなことではない。
マサキには迷惑をかけてしまったと思うけれど、カズは真摯に謝罪していたし、マサキもその謝罪を受け入れた。
それに、私はカズのその行動のおかげで大切なことに気づかせてもらえたから、責めるどころかきっかけをくれたカズに感謝の気持ちすらある。
ただ、あまりにも突発的でカズらしくない行動だったから、その理由は気になっていた。
「ひとつ聞いてもいい?」
「はい」
「どうして急にあんなことを?」
単純な疑問として尋ねると、カズは目を伏せて覚悟を決めるように小さく息を吐いた。
「サトさまはもう前を向いていらっしゃるのに、私はいつまでも過去ばかり振り返ってしまっていて…私もいい加減過去を断ち切って、前を向かなければと思ったんです…」
痛みを堪えるような顔でカズが答えてくれたけど、私はその答えに驚いてしまった。
「前を向いている?私が?」
カズの目にはそう見えていたの?
思わず聞き返すと、カズは真顔でこくりと頷いて。
ポケットからブローチを取り出すとぎゅっと握りしめた。
「すべて忘れるために、これも捨てなくちゃと思って…でもただ捨てることなんて出来なくて…捨てられないのならせめて綺麗なところに置いていこうって…」
それで衝動的に湖に投げ捨てようとしたらしい。